羽生竜王の通算勝率を5割にする方法を考える
(2023/12/16 追記)
2023年の将棋界に合わせて再検討し、かつ文章を校正したリバイス版を書きました。
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以下本編。
久々にこちらの記事を読んで面白いなあと思ったのですが、あくまで理屈の上でなら、羽生善治竜王はどこまで早く負け越せるのでしょうか?
羽生竜王の現在の成績は1402勝567敗であり、勝率5割にはあと835敗が必要です。
年間30敗しても28年かかる程の白星貯金を有していますが、その貯金を崩すために、各棋戦でどこまで黒星を稼いでいけるのかできるか考えてみましょう。
棋戦について
羽生竜王が参加できる棋戦は現在12個です。
棋戦名 | 予選・本戦 | タイトル戦 |
---|---|---|
竜王戦 | トーナメント形式 | 七番勝負 |
名人戦・順位戦 | リーグ形式 | 七番勝負 |
叡王戦 | トーナメント形式 | 七番勝負 |
王位戦 | 予選:トーナメント形式 本戦:リーグ形式 |
七番勝負 |
王座戦 | トーナメント形式 | 五番勝負 |
棋王戦 | トーナメント形式 | 五番勝負 |
王将戦 | 予選:トーナメント形式 本戦:リーグ形式 |
七番勝負 |
棋聖戦 | トーナメント形式 | 五番勝負 |
朝日杯 | トーナメント形式 | ✕(一般棋戦) |
銀河戦 | トーナメント形式 | ✕(一般棋戦) |
NHK杯 | トーナメント形式 | ✕(一般棋戦) |
JT杯 | トーナメント形式 | ✕(一般棋戦) |
棋戦は基本的にトーナメント形式のため、実はあまり多く負けられないようになっています。
加藤一二三九段が1000敗を達成したときには「偉業」と讃えられましたが、これは複数の負けが許される本戦リーグやタイトル戦番勝負に数多く登場した証と言えます。
では、各棋戦で何回敗北できるか考えていきます。
名人戦・順位戦
名人戦は、予選にあたる順位戦がリーグ形式となっています。
最高リーグであるA級で1位になった棋士が、名人戦に進出できます。
タイトル戦番勝負は、片方の棋士が3勝、もしくは4勝して勝ち越しが確定するまで続きます。
番勝負に進出して全敗するか、予選・本戦で全敗するか、どちらのほうが効率よく黒星を稼げるかを比較します。
方針 | 負け越し数 |
---|---|
タイトル戦番勝負全敗 | 2敗(順位戦5勝4敗 + プレーオフ1勝 + 番勝負4敗) |
順位戦全敗 | 9敗以上 |
順位戦残留 | 10敗(B1ループ、後述) |
順位戦A級は10人の棋士の総当たりリーグです。羽生竜王が5勝4敗、残りの9人が5勝4敗 or 4勝5敗となり、プレーオフで勝利すれば6勝4敗で名人戦に進出できます。
しかし、順位戦は予選段階で唯一リーグ制を取っている貴重な黒星源です。ここでひたすら負けた方が効率的でしょう。
現在挑戦中の名人を奪取して、竜王名人でタイトル100期の偉業を達成するなどもっての外です。佐藤名人には羽生竜王を3タテしてもらいます。
順位戦の構成は以下のようになっています。
朝日新聞の画像がわかりやすかったので引用しましたが、「名人への道」とは真逆の最多敗を目指す検証に使ってしまい申し訳なさが募ります。
第76期順位戦は三浦九段の立場保全、森内九段のフリークラス転出という特殊な事情があり、本来の定員はA級が10人、B級1組が13人です。
9敗しか稼げないA級からは速やかに陥落するべきです。
その後、毎年全敗し続ける方針も考えられますが、C級2組からフリークラスに転落すると順位戦に参加できなくなってしまいます。順位戦リーグに居座り続ける程度には勝たなければいけません。
B1ループ
順位戦リーグの中でも、B級1組は全12回戦と最多対局数のリーグです。このリーグで
- できるだけ多く敗北する
- B級1組には残留する
ことを考えましょう。
順位戦では、リーグの成績を元に上位者が昇級、下位者が降級します。
成績で並んだ場合は、順位戦開始時の順位で上位・下位を決定します。
そして、下の組から昇級した棋士は、次期リーグでは下位の順位となって参加します。
例えば、今年度は野月八段、畠山七段がB級2組からの昇級者で、順位は12位、13位になっています。
どれだけ成績が悪くても、同成績で順位が下位の棋士が二人いれば残留できます。そして、残留できれば翌年度には下位者が二人いる状態になります。このループを回すことにします。
具体的には、羽生竜王と昇級者二人が互いの対局で1勝1敗ずつとし、全員が残りの10人に全敗することで1勝11敗が3人となります。羽生竜王は順位差で11位として残留できます。
そして翌年度も同じことを繰り返します。これで毎年10敗を稼ぐ事が可能です。
※ちなみに、B級1組は総当たりのため複数の全敗者が存在できず、全敗するとどうあっても降級します。
考えられる難点として、B級1組に昇級した2人の棋士が毎年降級するため、元からの在籍者はB級2組へ降級することができません。羽生竜王が勝率5割切りを達成する頃には、B級1組の全棋士(B級2組からの昇級者除く)が60歳~90歳になっているでしょう。
これは一見現実的ではありませんが、B級1組は「鬼の棲家」と形容されるほどの激戦区です。将棋界の鬼にとって、数十歳の年齢差など微差に違いありません。健闘を期待しましょう。
(2022/06/17 追記)
2022年現在、B級1組⇔B級2組間の昇降級者は3名になっているため、1勝11敗によるB1ループは不可能で、最低でも2勝10敗が必要です。
代替案として、B級2組で0勝10敗を続けながら降級点を回避するB2ループが考えられます。
条件として、昨年度・今年度の昇級者6名全員が全敗すること、羽生九段を含む7名全員が全敗可能な組み合わせであることが必要です。
B級2組への昇級者は毎年3名、降級点獲得者は毎年6名なので、これを利用します。
1年目
順位 | 棋士名 | 成績 | 降級点 |
---|---|---|---|
19 | 羽生善治 | 0勝10敗 | 0 |
20 | 棋士A | 0勝10敗 | 2->降級 |
21 | 棋士B | 0勝10敗 | 2->降級 |
22 | 棋士C | 0勝10敗 | 2->降級 |
23 | 1年目の昇級者A | 0勝10敗 | 1 |
24 | 1年目の昇級者B | 0勝10敗 | 1 |
25 | 1年目の昇級者C | 0勝10敗 | 1 |
2年目
順位 | 棋士名 | 成績 | 降級点 |
---|---|---|---|
19 | 羽生善治 | 0勝10敗 | 0 |
20 | 1年目の昇級者A | 0勝10敗 | 2->降級 |
21 | 1年目の昇級者B | 0勝10敗 | 2->降級 |
22 | 1年目の昇級者C | 0勝10敗 | 2->降級 |
23 | 2年目の昇級者A | 0勝10敗 | 1 |
24 | 2年目の昇級者B | 0勝10敗 | 1 |
25 | 2年目の昇級者C | 0勝10敗 | 1 |
3年目
順位 | 棋士名 | 成績 | 降級点 |
---|---|---|---|
19 | 羽生善治 | 0勝10敗 | 0 |
20 | 2年目の昇級者A | 0勝10敗 | 2->降級 |
21 | 2年目の昇級者B | 0勝10敗 | 2->降級 |
22 | 2年目の昇級者C | 0勝10敗 | 2->降級 |
23 | 3年目の昇級者A | 0勝10敗 | 1 |
24 | 3年目の昇級者B | 0勝10敗 | 1 |
25 | 3年目の昇級者C | 0勝10敗 | 1 |
あとはこれを繰り返すだけです。
王位戦
王位戦は予選がトーナメント制、本戦が6人総当たり × 2の2リーグ制です。
両リーグの優勝者が挑戦者決定戦を戦い、勝者がタイトル番勝負に進出します。
方針 | 負け越し数 |
---|---|
タイトル戦番勝負全敗 | 2敗(本戦3勝2敗 + 挑戦者決定戦1勝 + 番勝負4敗) |
リーグ全敗 | 1敗(予選最低4勝 + 本戦5敗) |
リーグ残留 | 1敗(本戦2勝3敗) |
予選全敗 | 1敗 |
王位戦はタイトル戦番勝負に進出することで敗北数を最大限稼ぐことができる唯一の棋戦です。
挑戦者決定リーグでは、6人のうち2人しか残留できません。残留するためには最低でも2勝3敗が必要です(1人が5勝0敗、残り5人が2勝3敗)。
また、挑戦者決定リーグで全敗すれば5敗することは可能ですが、来年度のリーグ入り(再度全敗するため)には予選トーナメントを勝ち抜かなければならず、予選で敗北するのと負け越し数が変わりません。
一方、リーグ優勝→挑戦者決定戦勝利と進めれば勝ち越し数を2つに抑えられるため、番勝負と合わせて2敗を稼げます。
このとき挑戦者決定リーグで1位が複数存在しますが、必ずしもプレーオフになるわけではありません。
リーグ戦の優勝者はリーグ戦勝敗を優先とし、同星で並んだ場合、(中略)3勝2敗で並んだ場合、3名では該当する直接対決>前期成績(前期リーグ勝星>前期予選勝星)、4名では該当する直接対決、5名では前期成績(前期リーグ勝星>前期予選勝星)で優勝者・残留者を決めます。
4勝1敗で並んだ場合は、現在豊島八段と澤田六段が戦っているようにプレーオフになります。しかし、3勝2敗では該当者が多くなるためか、プレーオフは行われないようです。
例えば3者が3勝2敗で並んだ場合は、羽生竜王が残りの2人との直接対局で勝利していることを条件に、挑戦者決定戦に進出できます。4勝以上が現れなければ問題ありません。
羽生竜王が毎年番勝負に挑戦しては敗北していくため、在位中の菅井王位はタイトルを降りることができず、3年後には永世称号を獲得します。
王将戦
王将戦は1次予選と2次予選がトーナメント制、本戦が7人での総当たりリーグ制です。
方針 | 負け越し数 |
---|---|
タイトル戦番勝負全敗 | 3敗(本戦3勝3敗 + プレーオフ1勝 + 番勝負4敗) |
リーグ全敗 | 4敗(2次予選最低2勝 + 本戦6敗) |
リーグ残留 | 2敗(本戦2勝4敗) |
予選全敗 | 1敗 |
王将戦はどの方針を取ってもある程度黒星を稼げます。
挑戦者決定リーグでは7人のうち上位4人が残留できます。
勝数が同じ場合は、リーグ開始時の順位で残留者を決定します。順位戦に似ていますね。
2次予選からは3人がリーグ入りしますが、順位は全員5位で並びます。
残留を目指す場合は上位4人目で残留するため、1位~3位が全勝、5勝1敗、4勝2敗と可能な限り白星を積みます。その上で、羽生竜王が2勝4敗かつ順位4位以上、残りの3人(5位)が2勝4敗以下なら残留が確定します。
タイトル番勝負に進出するにはリーグで成績最上位者となる必要があり、成績が同率の場合は順位上位2名でプレーオフとなります。
全員が3勝3敗で並んでも、プレーオフの対局数は1回に抑えられます。
こうした方法を差し置いて、最も効率よく敗北できるのは挑戦者決定リーグ全敗です。
リーグから陥落すると、来年度の王将戦は2次予選からの参加になります。2次予選トーナメントの対局数は2~3局なので、2勝でリーグ入りし、リーグで6敗し続けることで通算では4敗を貯金できます。
竜王戦、叡王戦、王座戦、棋王戦、棋聖戦
残りのタイトル戦は全てトーナメント制なので、簡潔にまとめます。
竜王戦
方針 | 負け越し数 |
---|---|
タイトル戦番勝負全敗 | 1勝(予選3勝1敗 + 本戦4勝1敗 + 番勝負4敗) |
予選全敗 | 2敗 |
羽生竜王は当然竜王のタイトルを保持していますが、そちらは速やかに手放します。
本戦は予選上位者ほど後から登場する変則トーナメント制です。
タイトル番勝負進出を目指す場合は、予選で竜王戦1組を準優勝し(3位、4位でも可)、本戦の挑戦者決定戦では2勝1敗します。
また、竜王戦の予選には敗者にも2回目のトーナメントがあるため、全敗の場合は0勝2敗になります。
叡王戦
方針 | 負け越し数 |
---|---|
タイトル戦番勝負全敗 | 0敗?(本戦4勝? + 番勝負4敗) |
予選全敗 | 1敗 |
本戦は16人のトーナメント制です。
叡王戦は今年タイトル戦に昇格した新棋戦のため、タイトル番勝負の敗者がどの位置にシードされるか分かりませんでした。
今年の佐藤叡王同様に本戦からの出場なら、番勝負に進出するには4勝が必要です。
一般棋戦
一般棋戦はタイトル称号を冠さない棋戦です。羽生竜王が参加できるものは全部で4つですが、いずれも番勝負は存在せず、全てトーナメント制です。
JT杯
JT杯も一般棋戦ではありますが、全棋士参加棋戦ではありません。
以下のような出場条件が定められています。
JT杯覇者(前回優勝者)と今年度2月末日時点の日本将棋連盟公式戦タイトルホルダー(竜王・名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖)および前年度賞金ランキング上位の棋士、合計12名。
JTプロ公式戦について | 将棋日本シリーズ | JTウェブサイト
今までの羽生竜王ならタイトルホルダーとして出場を果たせましたが、タイトルを獲得できない以上は、賞金ランキングで上位12位までに入らないと出場できません。
将棋界 - Wikipediaによれば、ランキング12位の棋士は概ね1500万円~1900万円を獲得しています。一方、最多敗を目指す羽生竜王は順位戦、王位戦、王将戦こそ良い位置に付けていますが、それ以外の棋戦は全敗です。1500万円には届かないでしょう。
もし仮に、番勝負に進出するタイトル戦が王位戦ではなくもっと高額な竜王戦であれば、タイトルを逃しても1620万円の対局料を獲得できました。これほどの高額棋戦は他にないので、やはりJT杯には進出できず、ここでの1敗を取り逃すことになります。
(2022/06/17 追記)
JT杯に関して、可能性だけ考えればおそらく出場が可能なので追記します。
ランキング12位の棋士が例年1500万円~1900万円を獲得しているからといって、それより低い賞金額ではJT杯に参加できない、ということにはなりません。読み直していて気づきました。
対局料が高額となる対局を一部の棋士が寡占すれば、黒星を稼ぎながらランキング12位以内に入ることも不可能ではありません。
例えば、全タイトル八冠の獲得と参加可能な全一般棋戦の優勝を棋士Aが、王位以外のタイトル七つへの挑戦を棋士Bが達成すれば、その他の棋士は対局料を稼ぎにくくなるため、JT杯参加のハードルは下がります。
それでも賞金ランキング12位に届かない場合は、王位戦挑戦者の対局料のみを倍増すればよいのです。後述の通り日本将棋連盟会長に就任し、主催社に対して粘り強く交渉しましょう。
ここでさらに1敗を稼ぐことができたため、チャート改善により1年以上のタイム短縮になります。
まとめ
棋戦名 | 負け越し数 | 備考 |
---|---|---|
竜王戦 | 2敗 | |
名人戦・順位戦 | 10敗 | B級1組11位 1勝11敗 |
叡王戦 | 1敗 | |
王位戦 | 2敗 | タイトル番勝負全敗 4勝6敗 菅井王位が永世称号獲得 菅井 - 羽生百番指し |
王座戦 | 1敗 | |
棋王戦 | 1敗 | |
王将戦 | 4敗 | 挑戦者決定リーグ全敗 2勝6敗 |
棋聖戦 | 1敗 | |
朝日杯 | 1敗 | |
銀河戦 | 1敗 | |
NHK杯 | 1敗 | |
JT杯 | 1敗 | |
合計黒星 | 26敗 | 7勝33敗 勝率0.175 |
こうして毎年26敗を稼ぐことができました。あと835敗積み立てるには32年と少し、80歳頃に通算勝率5割切りを達成となります。
最終年度が近づけば、B級1組や王位リーグを全敗で陥落するため多少効率が良くなります。
負け越しの数より、これだけの黒星を積みながら年間40局も対局できる方がすごいと思います。
裏技(余談)
現行の棋戦で、これ以上の速度で黒星を稼ぐ方法は思いつきません。さらに早く勝率5割切りを達成するにはリーグ形式の公式棋戦を増やすしかありません。
棋戦の新設は将棋界全体に関わるイベントですので、発起人には相応の権威と権力が必要です。そこで日本将棋連盟会長に就任します。
如何に羽生竜王とはいえ、11敗して順位戦に残留し続ける謎の棋士が連盟会長として信を得られるかは疑問です。一部の棋戦の表面だけ見ればB級1組、王位挑戦、王将リーグ入りと華々しいですが、実際は勝率2割切ってますからね。永世七冠の威光でなんとかしましょう。
そしてリーグ棋戦を増やすのですが、昨今の将棋ブームにより棋士は多忙になってきています。全棋士の対局数を徒に増やせば、対局・解説の負担が増して批判は必定、棋士総会で吊るし上げられるでしょう。
羽生竜王の通算勝率を下げるためだけに、将棋界に迷惑をかける訳にはいきません。何か良い方法はないか…。
ありました。
囲碁界に倣ってシニア棋戦を作りましょう。
マスターズカップはトーナメント棋戦ですが、新設する棋戦(仮に羽生杯とします)はリーグ棋戦です。羽生竜王は現在47歳なので、出場条件は47歳以上のタイトル経験者とします。羽生竜王が参加できれば条件は何でもよいのですが、これだけ対局者数を絞れば、将棋界の負担も小さくなることでしょう。
2018年5月19日現在、羽生杯に参加できる現役棋士は羽生竜王の他、谷川九段、佐藤(康)九段、森内九段など14名です。7名ずつのリーグに分けて、リーグ勝者同士の決勝戦で優勝者を決めます。
羽生杯によってさらに6敗を積めば、羽生竜王の年間負け越し数は32敗となり、73歳頃に勝率5割切りを達成できます。